ピンク病は続く 娘の事情と母の追憶
数か月前まで服を選ぶにもグッズを買うにもピンク、ピンクと言っていた娘が、ピンクを選ばなくなった。ランドセルはオレンジか黄色、紫が欲しいそうだ。オレンジや黄色のランドセルはほとんどなさそうだから、紫が最有力候補だろう。
ある日、園からの帰り道に後部座席から「ピンク好きじゃない」と言い出したのが最初だったと思う。好きな色として白、オレンジ、黄色、紫など様々な色を挙げた上で「ピンクは6番目」と締めくくった。その後も娘のランキングではピンクは順位を下げ続けているらしきことが発言からうかがえた。
なぜピンクを好きでなくなったのか、少なくとも1番に好きでなくなったのか、きっかけはわからない。ほとんどの女の子はピンク病を経験する、とは、いつかどこかで読んだフレーズだ。「“アナと雪の女王”のエルサの影響で水色が好きになりました! ピンク病卒業!」みたいな文章も読んだことがある。さて、我が娘のピンク病が治まった原因は何であろうか。
幼い頃、私は黄色が好きだった。成長するにつれ他の色に関心が移っていったが、小学校中学年くらいまでは断然黄色が好きで、今も大好きな色のひとつである。幼い私は周りの女の子がピンク、ピンクと言っているのを奇妙に感じたものだし、多少反発も感じていた気がする。娘も反発したくなったのだろうか。
ピンク。そしてうさぎだ。今の幼児は知らないが、私の幼い頃にピンクと並んで人気があったのはうさぎのキャラだった。本物のうさぎでなく、うさぎのキャラというのがポイントである。本物のうさぎがどういう生き物かなんて誰も知らない。そのくせ、うさぎのキャラといえば可愛いと皆が思い込んでいるように見えた。私は猫のキャラが好きだった。この相違も周囲の女児に対する私の小さな不満であった。今も、絵本や童話でうさぎのキャラがお決まりのように女の子なのを見ると、心に微かに引っかかる。男の子設定にしてみなよ、と口出ししたくなってくる。ピンク色のうさぎだと心のさざ波は尚更大きくなって、いったいピンク色のうさぎとは何なのかと突っ込みたくなる。このうさぎは毛がないの? だからうさぎにとっての肌色であるピンクなの?
余談だが、現在40歳の私が子どもの頃は「肌色」と呼ばれていた色が今は「うすだいだい色」と呼ばれている。この名称変更は当然のことだと思う。そもそも、あの色はアジア系の肌の色とは違う。
またしても余談だが、絵本のノンタンシリーズではノンタンの友達でピンク色の「うさぎさん」3人組が登場するが、性別がはっきりしない。喋り方などから男の子のようにも感じられる。頑固者の私もうさぎのキャラと見ればすべてに目くじら立てるわけでもなく、うさこちゃん(ミッフィーちゃん)は好きだ。それと、ピンクは大人になってから好きになった。
余談から話を引っ張るのも何だが、うさこちゃん・マイメロディ・キティちゃん・西松屋のうさぎのキャラクターなど、耳が上方に立っているキャラを見ると、娘は2歳の頃必ず「み・み・ちゃん」と感に堪えない様子で言っていた。わざわざ中ぽつ(・)打つほど音と音の間に間隔が空いていたわけではない。言葉が出始める年ごろならではのたどたどしいような言いぶりを思い出すとしみじみ懐かしくなって、少しでも再現するために中ぽつを打ってみた次第だ。そんなことはどうでもいいか。
話をピンク病に戻す。「そうか、この子はもうピンクが好きではないのだ」と母に一度は納得させた娘だが、実は今もピンクが好きらしいことは日常生活でしばしば感じとれる。「好きじゃないけどかわいい」などと表現を工夫しつつ、ピンク好きをカモフラージュしている娘である。先日、自転車のヘルメットを新調しに行ったときも、他にたくさん色がある中からピンクがメインのものを選んだ。ランドセルの最有力候補である紫色を私が勧めても試着すらしない。案外、ランドセルもピンクが欲しいのかもしれない。ピンク好きを否定する娘の心理はいまだ謎のままだ。