雑草駆除から始まる、春の庭のお話
暖かくなったから雑草の伸びるのが早い。週末は子どもたちが庭で遊ぶ横で雑草と闘っている。その甲斐あって、洗濯物を干すスペースと物置を兼ねたテラスから庭の南端まで伸びていたグリーン・ロードは解消された。狭い敷地でも家の四方に雑草が伸びるスペースがあるので、まだこれからあちこち手を付けねばならない。
グリーン・ロードで存在感を放っていたのは、庭の南端を拠点に茂っていたスギナである。もともとスギナとドクダミが庭の二大雑草だったのだが、ドクダミは去年の秋に地下茎を散々に「やった」成果か、この春はあまり見かけない。といっても皆無ではないので、いい加減な抜き方をしていると再び地下茎をはびこらせてしまうかもしれない。
「やった」という表現は一般的な「やった」でもあるし、「殺った」の意味も多少含んでいる。それくらい、ドクダミの地下茎との闘いはハードかつ手ごたえのあるものだった。
そのときまで、私は地下茎を知らなかった。「スギナやドクダミを地表から引っこ抜いてもちっとも『抜いた』感がない、根っこがしぶとく地中に残っている気がする」と大きなシャベルを持ち出して掘り返してみたところ、成人男性の指くらいか、それよりも太い根っこらしきものが出てきて、木の枝かと思った。あるいは、「今どきこんなに木を生やしている庭はない」ほど多い我が家の成木のうちのどれかの根っこかと。だがそれがドクダミの地下茎で、すぐそばに生えている椿の枝よりはるかにたくましかった。
現れた地下茎を上方向に引っ張ってみると、周囲の土を盛り返しながら出て来る出て来る、地中を貫く太いパイプが。途中でぶちっと切れてしまったりしつつも、基本的に頑丈なので、うまくいけば1m近くを一気に引き出せることもある。そういうことを繰り返すうちに地中はすっきりし、ドクダミの減少につながったものと分析している。
スギナの地下茎のほうがかえって厄介だ。ドクダミほど太くない。スギナの地下茎の存在感はドクダミよりはるかに小さい。地表からスギナを引っこ抜こうとすると、根っこまでは引き抜けず、地表から出ている緑の葉っぱの部分だけしか手元に残らないことが多い。掘ってみるとひげのような細い根っこが無数に生えているのがわかる。その細い根が地中に広く伸びていることも。ドクダミの地下茎を引っこ抜くときのようなダイナミックさがなく、達成感も少ない。ちまちまと細い根の密集したものを取り除くことになる。でも、いまネットで調べたところによると、スギナの地下茎は切断するほど地中深く潜ってより一層繁殖してしまうらしい。恐ろしい。スギナの場合、地表の緑色を取り除くだけで満足しなければならないのかもしれない。
https://www.cp.syngenta.co.jp/cp/columns/view/?column_id=135
スギナはそもそもツクシのはずだ。少しくらいツクシ生えててもいいのに、と思いながら駆除していたら、1本だけ見つけた、細くて小さいツクシ。遠い昔、下校途中に摘んだたくさんのツクシを祖母が醤油で煮てくれたことが一度だけある。祖母と妹と一緒に頭とハカマを除いたのも覚えている。好き嫌いの多い子どもだったが、手間のわりに量の少ないツクシ煮をおいしく食べられたことも。
庭で遊んでいた子どもたちに「ツクシ」と言うと寄って来たが、私は結局、「1本だけ料理したってしょうがないね」と言ってスギナと一緒に引っこ抜いて、抜いた雑草置き場に捨ててしまう。雑草でしかないスギナの中に1本だけツクシを見つけた途端、「春を感じる」などと言いだすのも勝手なものである。
スギナ以外の雑草も繁茂していたのでシャベルで掘り返して駆除した。土の中に白く光ってうごめいているものがあり、カブトムシの幼虫だった。違う場所で2度も見かけた。そっと土を戻してやって、再び掘り起こしはしなかった。子どもたちにとって庭はストーリーのある場所だ。大人になってしまった私は、こういうときにだけ辛うじてストーリーを見出している。